これまでの9回シリーズで学んだ知識を、具体的な行動計画としてまとめた「遺言準備ロードマップ」をご紹介します。初めて遺言を考える方も、一度作成したけれど更新が不安な方も、このロードマップを実践すれば、確実にあなたの最終意思を形にできます。


ロードマップ全体像

  1. 準備フェーズ:情報収集と設計
  2. 作成フェーズ:方式選択から遺言書完成まで
  3. 運用・見直しフェーズ:保管・執行者指定・定期更新

各フェーズを3~6か月区切りで進め、合計1年程度でひととおりの体制を整えるのが目安です。


フェーズ1:情報収集と設計(0~3か月目)

遺言の基礎となる「今の状況」を正確に把握し、目的と優先順位を明確にしましょう。

  • 相続人の把握
    • 家族関係図を作成
    • 法定相続人の範囲と順位を確認
  • 財産一覧の作成
    • 不動産(登記簿謄本取得)
    • 動産・金融資産(預貯金通帳、証券)
    • 債務(ローン残高、未払金)
  • 相続時のリスク分析
    • 遺留分トラブルの可能性
    • 相続人間の関係性
    • 相続税負担の見積もり
  • 最終意思の整理
    • 誰に何を、なぜ渡すか(付言事項の下書き)
    • 特定遺贈・包括遺贈の使い分け方針
    • 遺言執行者候補のリストアップ

この段階で家族や専門家に相談し、大きな方針にズレがないかを確認します。


フェーズ2:遺言作成(4~8か月目)

方針が固まったら、遺言方式を選び、書式要件を満たして実際に作成します。

  1. 方式選択
    • 自筆証書/公正証書/秘密証書の比較検討
    • コスト・安全性・機動性のバランスを確認
  2. 文案作成
    • 条項ごとのドラフトを作成(遺留分・税金対策含む)
    • 付言事項で思いを可視化
  3. 専門家チェック
    • 行政書士・司法書士・弁護士に法的チェックを依頼
    • 表記ミスや矛盾を徹底的に洗い出し
  4. 本文書作成
    • 自筆証書:全文自筆、押印、日付の正確な記載
    • 公正証書:公証役場との事前打合せ、証人手配、手数料支払い
  5. 遺言執行者の指名と承諾取得
    • 適任者への生前相談と承諾書取得
    • 報酬・実費負担の取り決めを明文化

これで「法的要件を満たした遺言書」が完成します。


フェーズ3:運用・見直し(9~12か月目以降)

遺言書は保管して終わりではありません。安全に執行し、未来を担保するための体制を整えましょう。

  • 保管場所の確保
    • 自筆証書:法務局保管制度/自宅金庫+コピー第三者保管
    • 公正証書:公証役場正本保管+謄本の所在共有
  • 遺言執行者への引継ぎ
    • 保管先・アクセス手順を通知
    • 就任承諾書の原本を一緒に保管
  • 定期点検の実施
    • トリガーリスト(再婚・離婚・子誕生・離別・財産売買・法改正など)
    • 目安は3年に1度、重大イベント発生時は即時レビュー
  • 見直し・撤回の手続き
    • 最新版を作成し、旧版を明示的に撤回
    • 旧版遺言書・データは完全破棄

これで遺言書が「生きた文書」として機能し続けます。


ケース別チェックポイント

状況に応じた調整ポイントをまとめました。

  • 再婚・事実婚
    • 既存の遺言を再検討し、配偶者居住権や付言条項でバランス調整
  • 子の誕生・養子縁組
    • 相続人増加に合わせて相続分の再配分
    • 教育資金贈与・信託による段階的給付
  • 事業承継
    • 株式・議決権の分離設計
    • 信託設定や後継者保証の明記
  • 海外資産・移住
    • 二重課税対策、現地代理人の指定
    • 海外送金・通関手続の権限付与
  • 高齢化・介護
    • 任意後見契約・家族信託との連携
    • 医療・葬送の希望明記

すぐ使える実践チェックリスト

  1. 家族構成図・財産目録を最新化した
  2. 法定相続人と法定相続分を把握した
  3. 遺言方式を選択し、専門家に相談した
  4. 遺言執行者を決定し、承諾書を取得した
  5. 遺言書を正しい方式で作成し、保管した
  6. 見直しトリガーリストを作成し、定期点検スケジュールを設定した
  7. 旧版遺言の撤回手続きを完了した

まとめ

今日から始められる遺言準備は、準備・作成・運用の3フェーズを着実に進めることで、最終的に「誰が見てもわかる」「すぐに実行できる」文書が完成します。

シリーズ全体を通じて得た知識を、このロードマップに当てはめ、小さなタスクを積み重ねてください。万全の準備で、あなたの思いを未来につなぎましょう。

次回以降、法改正や実務の最新トピックなどを不定期に更新していきます。